太田肇 Critical Essays ”個の視点”

同志社大学政策学部教授 (個人尊重の組織論、モチベーション論)  日常生活のなかで疑問に感じたとき即座に書いたものがほとんどです。不完全な内容や思い違いがあるかもしれませんが、お許しください。

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私が考える労働組合再生論

キーワードは「オープン化」と「インフラ化」


労働者の多様化と組合

 組合の組織率が下げ止まらず、春闘の役割も形骸化するなど、労働組合の前途には明るい光がみえてこない。最大の原因は、労働者の多様化に対応できず、いつまでも旧来の運動スタイルに固執しているところにあるのではなかろうか。
 急速な技術革新や知識労働の増加によって、長期雇用や年功制の根拠が薄れ、若年層と中高年層、正社員と非正社員の利害対立が表面化するようになってきた。また、職種や仕事の内容が多様化し、労働者間で能力・業績の格差が広がった結果、「労対使(資)」という構図で問題をとらえ解決することが難しくなってきた。
 仕事内容の変化に伴って、人々のワークスタイルも変わりつつある。一つの企業のなかで職業生活を完結する「組織人」が減少する一方、組織よりも仕事を重視し仕事を軸にキャリアを形成する「仕事人(しごとじん)」が多数を占めるようになった。彼らと組織との関係は、仕事を媒介にした限定的なものであり、条件に応じて職場を移ることは珍しくない。また、就労形態も正社員にこだわらず、個人の生活スタイルやライフステージに応じて多様化する。
 このように労働者の多様化が進んだ結果、これまで労働組合がこだわり続けてきた前提条件や原則を根本的に見直さなければならなくなっている。
 まず、労働者が企業に対して距離をおいた関わり方をするようになると、企業内の労働組合に対する関係も限定的なものになる。したがって、労働組合を共同体として位置づけることには無理が出てくる。ある意味で、個人の功利的な動機による組合参加や個人主義を認めざるをえないのである。
 また、労働者が多様化し共通項が少なくなると、組合として特定の政党を支持したり、一律の要求を掲げて闘うことができなくなる。
 さらに、高度なプロフェッショナル、社内起業家、SOHOなどの増加が象徴するように、資本家あるいは経営に従属する労働というとらえ方そのものが必ずしも妥当とはいえなくなる。労働者の大半は、イデオロギーを前面に出した組合運動よりも、日々の仕事や生活に直結した問題への取り組みを期待しているということを認識してなければならない。

改革のための二つのキーワード

 それでは、労働組合の存在理由がなくなったかというと、もちろんそうではない。個々の労働者が企業と対等に交渉し、市場の荒波の中で生き残ることは至難の業である。労働者を庇護する企業という傘が小さくなった分、労働組合の役割はむしろ大きくなったという見方もできる。したがってこれからは、メンバーの多様性、自律性を尊重しながら、連帯し支え合っていくことがますます必要になるのである。
 そこで、改革のために二つのキーワードを示したい。
 一つは、「オープン化」である。労働者が企業の垣根を越えて移動するようになると、企業別組合の限界が露呈される。また、パートタイマー、契約社員などの比率が高まるにつれて、正社員中心の組合は力を失うことになる。その結果、運動理念の一つである平等主義にしても、自社の正社員の平等を図ることがかえって社会的な不公平・不平等をもたらすというような矛盾に直面する。したがって市場主義をタブー視するのではなく、企業に対して交渉力を維持するためにも、また広く社会的な公平、平等を実現するためにも、むしろ市場に片足を入れておくべきだと考えられる。
 もう一つは、「丸抱え」型から「インフラ型」への転換である。企業の組織や人事のスタイルが、従来の丸抱えから、仕事の「場」の提供へと移り変わりつつあるのと同じように、労働組合も運命共同体的な団結から、個人の主体的な活動を支援する「インフラ型」へと転換しなければならない。すなわち、個人のウエイトが高まり、また個人としての労働者を尊重しようとすると、労働組合は自営業者の同業組合に近づいていくのである。

組合の新しい役割

それでは、具体的にどのような役割が求められるようになるのか。
 まず第一に、個人が直接企業と交渉し、報酬や労働条件が決まるようになると、実質的に対等な立場で交渉できるように下支えし、契約が正しく履行されているか否かを監視することが必要になる。また、日常的に発生する個別の問題を解決していくことも大切である。
 ちなみに、産別組織のなかでもゼンセン同盟は、現場に足を運んで組織拡大の努力ときめ細かな世話活動を続けることによって、逆風化でも勢力の維持に成功している。
 第二は、能力開発や福利厚生への取り組みである。労働力の流動性が高まるに伴い、企業側は従来の研修や福利厚生をスリム化する傾向がみられる。そこで組合としては、企業の枠にとらわれず、労働者の立場に立った能力開発や福利厚生を充実させていくべきであろう。
 第三に、いわゆる転職の支援があげられる。働く者にとって最も不安定な立場に置かれ、サポートを必要とするのは職場を移るときである。したがってこれからの組合は、転職を例外事項として軽視するのではなく、個人が損をせずスムーズに移動できるよう積極的に支援することが必要になる。さらに将来は、転職情報の提供や転職後の勤務条件の保障などにまで踏み込むことも視野に入れてよいのではなかろうか。

春闘に何を求めるか

 ただ、個別の対応が重要になる一方で、労働者側が団結して経営側と交渉することももちろん必要である。その意味では、春闘型の交渉には依然として意義があるといえよう。もっとも、そこで掲げられる目標としては、従来のように賃上げ一本槍ではなく(定型的な職種においては従来どおりの賃金交渉が中心になるが)、市場における競争を前提にしたうえでの働く枠組みづくりや問題点の解決に比重を置くべきであろう。
 たとえば、働く人々の健康を守り休日や自由時間を確保するために、産業レベルで労働者間の競争をコントロールすること、いわゆるサービス残業の解消、性別や雇用形態による差別をなくすことなど、重要な課題は山積している。
 いずれにしても、従来型の仕事や働き方を前提にした組合活動からの思いきった転換が迫られていることはたしかである。多様化する労働者のニーズに応えながら、共通する課題の解決に力を発揮できるようにようになったときが、労働組合復権のときとなるに違いない。
(『労政時報』2000.8)
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  1. 2000/07/31(月) 12:22:04|
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プロフィール

太田 肇

Author:太田 肇
<ホームページ>
http://www.eonet.ne.jp/~ohtahajime/

<職業>
「組織学者」としておきます。

<主な研究分野>
組織論
とりわけ、「個人を生かす組織・社会」について

<肩書き>
同志社大学 政策学部・大学院総合政策科学研究科教授
経済学博士

<著書>
◆最新刊 『最強のモチベーション術 人は何を考え、どう動くのか?』(日本実業出版社)

『個人を幸福にしない日本の組織』(新潮新書)
『社員の潜在能力を引き出す経営』(中央経済社)
『がんばると迷惑な人』(新潮新書)
『子どもが伸びる ほめる子育て』(ちくま新書)
『組織を強くする人材活用戦略』(日経文庫)
『表彰制度』(日本表彰研究所との共著 東洋経済新報社)
『社員が「よく辞める」会社は成長する!』(PHPビジネス新書)
『公務員革命』(ちくま新書)
『承認とモチベーション -実証されたその効果-』(同文舘)
『「不良」社員が会社を伸ばす』(東洋経済新報社)
『「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)
『認め上手  -人を動かす53の知恵-』(東洋経済新報社)
『認められる力』(朝日新書)
『日本的人事管理論』(中央経済社)
『承認欲求』(東洋経済新報社)
『お金より名誉 のモチベーション論』(東洋経済新報社)
『「外向きサラリーマン」のすすめ』(朝日新聞社)
『認められたい!』(日本経済新聞社)
『「個力」を活かせる組織』日本経済新聞社)
『選別主義を超えて』(中公新書)
『ベンチャー企業の「仕事」』(中公新書)
『個人尊重の組織論』(中公新書)
『ホンネで動かす組織論』(ちくま新書)
『囲い込み症候群』(ちくま新書)
『仕事人(しごとじん)の時代』(新潮社)
『仕事人と組織』(有斐閣)
『日本企業と個人』(白桃書房)
『プロフェッショナルと組織』(同文舘)

<生活信条>
できるだけ人に迷惑をかけないこと。恩を忘れないこと。

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