太田肇 Critical Essays ”個の視点”

同志社大学政策学部教授 (個人尊重の組織論、モチベーション論)  日常生活のなかで疑問に感じたとき即座に書いたものがほとんどです。不完全な内容や思い違いがあるかもしれませんが、お許しください。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

変わる日本人、変わらぬ組織

 わが国の会社や学校では、何事においても全員参加が尊ばれ、ことあるごとにまとまりや一体感が強調される。組織のアイデンティティを高めるために社歌・社訓、校歌・校章、制服といったさまざまなシンボルが用いられ、和を保つためメンバーの間に待遇や評価で格差が生じないよう細心の注意が払われる。
 ところが、こうした努力とは裏腹に労働者や生徒の心はむしろ組織から遠ざかっていくようにみえる。国際的な意識調査によると、日本人の仕事や職場に対する満足度、それに組織に対する帰属意識は主要国の中でもきわめて低い水準にあり、日本的なシステムに対して抵抗感をもつ人も増えている。教育の場では、学級(学校)崩壊や不登校が広がり、中学・高校の「公立離れ」にも歯止めがかからない。
 このように、ある意味で会社や学校の限界が露呈されるようになると、今度は新たな受け皿として地域社会の重要性が叫ばれる。地域での生活こそが人間的であり、サラリーマンも生徒もそこに根を下ろし一体となって町をつくっていくべきだというわけである。そして地域社会や地域活動といえば、相変わらず自治会・町内会、PTAなどがその役割を担うことになるが、これらの組織も体質や運営方法は既存の会社や学校と大差がない。同じようにメンバーを囲い込もうとし、結果的に「組織離れ」を引き起こしている。
 自治会やPTAがいろいろな行事を企画しても参加者は減る一方であり、引き受け手のない役員をどのように決めるかをめぐっては会員同士のトラブルが絶えない。子供会や老人会の中には、リーダーの不在や活動の衰退によって解散に追い込まれるところもでてきている。
 こうした現象の背景には、日本人の働き方や生活パターン、それに価値観や行動様式の変化がある。IT化やグローバル化、女性の社会進出によって働き方や生活様式が多様化・広域化し、既存の組織の枠内に納まらなくなってきた。転職や転校、それに遠距離通勤・通学や単身赴任は当たり前になり、複数の生活拠点をもつ人も増えている。そうなると当然のことながら、個々の組織に対してこれまでのように深く関わったり一体化することはできない。そして、組織の中で平等に扱われることよりも、社会的にみて妥当な評価・処遇を受けているかどうかが重要になる。
 このような変化と呼応するかのように、個人の意識や志向も変わりつつある。各種の意識調査や社会現象に表れているように、年齢、性別、職業などの属性を超えてある種の個人主義が広がりをみせている。それは、一方で私生活を大切にしマイペースの生き方を貫きながら、同時に専門家として活躍し社会的にも評価されようという、新しいタイプの個人主義である。たとえば、若者にとって出世や成功のシンボルは、組織人として頂点に登りつめた社長や高級官僚ではなく、トップ・アナリスト、人気ソフトのクリエーター、カリスマ美容師たちである。
 ところが、組織の側は相変わらず伝統的な日本人観から脱却できていない。否、正確にいえば変化に気づいてはいる。しかし残念ながら、それに対応できるモデルを持ち合わせていないのが現実のようである。そこで手っ取り早いのは欧米型モデルをそのまま輸入することだが、欧米型も万能ではなく、とくに巨大化した企業組織などはまた別の意味で行き詰まりをみせている。
 わが国の社会と経済をすっぽりとおおう閉塞感と沈滞。そこから逃れるためにも、「変化する日本人」を正しくとらえ、遠回りのようだが自前のモデルを構築していくしかないのである。
(『ちくま』2001.1)
スポンサーサイト
  1. 2000/12/31(日) 12:23:55|
  2. 過去
  3. | トラックバック:0

プロフィール

太田 肇

Author:太田 肇
<ホームページ>
http://www.eonet.ne.jp/~ohtahajime/

<職業>
「組織学者」としておきます。

<主な研究分野>
組織論
とりわけ、「個人を生かす組織・社会」について

<肩書き>
同志社大学 政策学部・大学院総合政策科学研究科教授
経済学博士

<著書>
◆最新刊 『最強のモチベーション術 人は何を考え、どう動くのか?』(日本実業出版社)

『個人を幸福にしない日本の組織』(新潮新書)
『社員の潜在能力を引き出す経営』(中央経済社)
『がんばると迷惑な人』(新潮新書)
『子どもが伸びる ほめる子育て』(ちくま新書)
『組織を強くする人材活用戦略』(日経文庫)
『表彰制度』(日本表彰研究所との共著 東洋経済新報社)
『社員が「よく辞める」会社は成長する!』(PHPビジネス新書)
『公務員革命』(ちくま新書)
『承認とモチベーション -実証されたその効果-』(同文舘)
『「不良」社員が会社を伸ばす』(東洋経済新報社)
『「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)
『認め上手  -人を動かす53の知恵-』(東洋経済新報社)
『認められる力』(朝日新書)
『日本的人事管理論』(中央経済社)
『承認欲求』(東洋経済新報社)
『お金より名誉 のモチベーション論』(東洋経済新報社)
『「外向きサラリーマン」のすすめ』(朝日新聞社)
『認められたい!』(日本経済新聞社)
『「個力」を活かせる組織』日本経済新聞社)
『選別主義を超えて』(中公新書)
『ベンチャー企業の「仕事」』(中公新書)
『個人尊重の組織論』(中公新書)
『ホンネで動かす組織論』(ちくま新書)
『囲い込み症候群』(ちくま新書)
『仕事人(しごとじん)の時代』(新潮社)
『仕事人と組織』(有斐閣)
『日本企業と個人』(白桃書房)
『プロフェッショナルと組織』(同文舘)

<生活信条>
できるだけ人に迷惑をかけないこと。恩を忘れないこと。

最近の記事

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。