太田肇 Critical Essays ”個の視点”

同志社大学政策学部教授 (個人尊重の組織論、モチベーション論)  日常生活のなかで疑問に感じたとき即座に書いたものがほとんどです。不完全な内容や思い違いがあるかもしれませんが、お許しください。

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「個」の視点からの組織論

 私は一応組織論を専門にしているので、初対面の人は私が当然「組織好き」であると思いこんでいるようです。そうではないと言うと相手はけげんな顔をします。そこで私は、「酒屋の主人が酒飲みとは限らない」とか、「病気が好きな医者はいない」と言い逃れることにしています。
 へそ曲がりの自己弁護に聞こえるかもしれませんが、組織をあまり好きにならない方がむしろ組織の問題点を敏感に受けとめられたり、「常識」とは違う見方ができることもあるのではないでしょうか。
 昨年末に上梓された拙著『囲い込み症候群?会社・学校・地域の組織病理』(ちくま新書)では、オーソドックスな組織論とは違ってメンバー個人の視点から、身近な組織にみられる「囲い込み」体質をとりあげ、その問題点を追究してみました。
 皆さんが日頃経験されているように、わが国の会社や役所、学校などでは組織を一種の共同体とみなし、内部での一致団結を図ってきました。「全社一丸となって」とか、「クラス全員で」といった言葉が枕詞のように使われるのはその表れです。たしかに、全体の目標を達成するためにある程度の画一化や協調行動は不可欠であり、それによってメンバーの脱落や格差の拡大を防げるといったメリットもあります。
 しかし、一見するとまとまりのよい組織の中で、実際は必要以上に個人の自由が妨げられたり異端者が抑圧されていることがあります。また、内部者を大切にしたり平等に扱おうとすることが、外部に対して閉鎖的になったり、組織の内外に不合理な格差を生じさせる場合も少なくありません。そして、長期的には活力の低下や環境への不適応を招き、組織そのものが衰退へ道をたどっていくのです。
 これは、組織が個人を内部に囲い込むことから生じる一種の病理現象ともいうべきものであり、民主主義を標榜する労働組合や政治組織、自主的参加を旨とする職場の小集団活動や地域の自治会・PTAなどのような組織のなかにもみられます。さらに組織を大きくとらえるならば、国や地方自治体も視野に入ってきますが、そこで進められている地方分権、特色ある地域づくりなども、それらが個人に対してどのような影響をもたらすかを冷静に見極める必要がありそうです。
 それではなぜ今、こうした問題を改めて取りあげなければならないのでしょうか。私が注目しているのは、組織を構成する個人の変化です。組織の時代といわれる今日、あらゆる人々が組織に属し組織と関わり合いながら生活を送るようになりました。そうなると当然、組織が好きな人だけでなく、個人プレーを得意とする人や、もともと組織になじめない人たちもメンバーに加わってきます。
 また、仕事や経済・社会構造の変化と並行して個人の意識、行動様式にも変化がみられます。とくに見逃せないのは、ある種の個人主義が若年層だけでなく中高年にも広がりつつあり、それが働き方、生活様式、行動範囲、組織への関わり方に大きな影響をもたらしていることです。組織への高い忠誠心や集団主義といった、伝統的な日本人像そのものがいよいよ崩れようとしているのかもしれません。
 ところが、組織の側はこうした個人の変化に必ずしも迅速な対応ができていないようです。そのため、いたるところで矛盾や歪みがみられるようになりました。表向きの勤勉さの背後で進行する生産性の低下と離転職の増加、いつになっても歯止めがかからない組合離れ、「地域に帰れ」というかけ声とは裏腹に盛り上がりを欠く地域活動、さらに出社拒否や不登校、いじめといった今日的問題の陰にもこうした「組織と個人の不適合」があるのではないかと考えています。
 いま求められているのは、「新しい個人」と社会の要請に適合するような組織への構造改革です。たいへん深くかつ大きなテーマですが、これからも非力ながら研究を続けるつもりです。
(広報誌『しがだい』2002.4)
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  1. 2002/03/31(日) 12:29:40|
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プロフィール

太田 肇

Author:太田 肇
<ホームページ>
http://www.eonet.ne.jp/~ohtahajime/

<職業>
「組織学者」としておきます。

<主な研究分野>
組織論
とりわけ、「個人を生かす組織・社会」について

<肩書き>
同志社大学 政策学部・大学院総合政策科学研究科教授
経済学博士

<著書>
◆最新刊 『最強のモチベーション術 人は何を考え、どう動くのか?』(日本実業出版社)

『個人を幸福にしない日本の組織』(新潮新書)
『社員の潜在能力を引き出す経営』(中央経済社)
『がんばると迷惑な人』(新潮新書)
『子どもが伸びる ほめる子育て』(ちくま新書)
『組織を強くする人材活用戦略』(日経文庫)
『表彰制度』(日本表彰研究所との共著 東洋経済新報社)
『社員が「よく辞める」会社は成長する!』(PHPビジネス新書)
『公務員革命』(ちくま新書)
『承認とモチベーション -実証されたその効果-』(同文舘)
『「不良」社員が会社を伸ばす』(東洋経済新報社)
『「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)
『認め上手  -人を動かす53の知恵-』(東洋経済新報社)
『認められる力』(朝日新書)
『日本的人事管理論』(中央経済社)
『承認欲求』(東洋経済新報社)
『お金より名誉 のモチベーション論』(東洋経済新報社)
『「外向きサラリーマン」のすすめ』(朝日新聞社)
『認められたい!』(日本経済新聞社)
『「個力」を活かせる組織』日本経済新聞社)
『選別主義を超えて』(中公新書)
『ベンチャー企業の「仕事」』(中公新書)
『個人尊重の組織論』(中公新書)
『ホンネで動かす組織論』(ちくま新書)
『囲い込み症候群』(ちくま新書)
『仕事人(しごとじん)の時代』(新潮社)
『仕事人と組織』(有斐閣)
『日本企業と個人』(白桃書房)
『プロフェッショナルと組織』(同文舘)

<生活信条>
できるだけ人に迷惑をかけないこと。恩を忘れないこと。

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