太田肇 Critical Essays ”個の視点”

同志社大学政策学部教授 (個人尊重の組織論、モチベーション論)  日常生活のなかで疑問に感じたとき即座に書いたものがほとんどです。不完全な内容や思い違いがあるかもしれませんが、お許しください。

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震災対応にみた<裏承認社会>の強みと弱み

 先週から今週にかけて海外の要人たちに会う機会があった。そのたびに聞かされたのは、震災に対するお見舞いの言葉に加えられたつぎのような感想である。それは、被災者の秩序正しい行動と救援や支援に当たった人たちの努力と勤勉さ、対照的なリーダーたちの対応のまずさである。
 
 これは彼らの情報源が、日本国内からマスコミによって伝えられる二次的情報にかぎられているためかもしれない。実際、わが国のマスコミもおおむねそのような論調だし、世論も同様の評価だ。

 今朝の日本経済新聞「経済教室」で教育学者の苅谷さんも、現場を支える人たちの献身ぶりと指導的立場に立つ人々の対応のまずさ(「底」の浅さ)を指摘している。苅谷さんによれば、それは初中等教育への称賛と大学教育の凡庸さという国際的な評価とも符合する。つまり、大衆教育は健全だが、リーダーを育てる大学の教育機能が劣化しているというわけだ。

 現場の人たちの秩序正しい行動や献身ぶりと、リーダー層の「底」の浅さ。こうした評価には私も賛同する。ただ、それをもたらした原因については、ちょっと違った見方もできるのではないか。

 私はこれまで、日本の社会・組織では自発的な行動や個性の発揮、秀でた能力や業績をたたえる「表の承認」より、実際は秩序や序列を守り、和を乱さないことの方を求める「裏の承認」が支配しているとたびたび指摘してきた(拙著『承認欲求』、『お金より名誉のモチベーション論』など)。

 今回の震災後における日本人の言動にも、それがはっきりと表れている。非常時でも礼儀をわきまえ、秩序正しく行動する姿は<裏承認社会>の「光」の部分である。それを評価し、たたえるべきなのは当然だろう。
 しかし一方では、リーダーたちがマスコミや世間の批判を恐れて及び腰になり、信念や自らの判断に基づいて果敢に行動することができなかった。そもそも、平素からそのような判断や行動をとる習慣がなく、訓練もなされていなかったといえよう。つまり、<裏承認社会>にドップリとつかっていたのである。典型的な<裏承認社会>の住人たちに、危機だからといっていきなりリーダーシップを発揮しろといってもどだい無理な話だ。

 もちろんそれはリーダー層にかぎった話ではなく、<裏承認>の風土は広く日本人、日本社会を覆っている。たとえば、「自粛」せずにはいられない空気一色になったかと思えば、潮目が変わると「自粛の自粛」論が幅をきかせる。
 もっとも、それはわが国にかぎられた社会の反応とは言えない。どこの社会でも世論の趨勢というものはあるし、それに反する意見は批判も浴びる。しかし、少なくとも先進国といわれる国々では異論を唱える人たちが、それなりに「居所」を得ている。そして異論を唱え続ける人たちがいる。それに対し、わが国では異論を唱えると徹底的にバッシングされ、表の社会から追放される。つまり、建前では言論の自由とか少数意見の尊重とかいいながら、実際は濃厚な空気がそれを許さない。

 このような社会は、表面的には美しく健全なように見えても、実は危険で脆いところがある。へたをすると、いたるところに慇懃無礼な人や偽善者がはびこる可能性もある。ミネルヴァの森のフクロウのように、事態が落ち着いたら、あらためてこの問題をみんなで考えようではないか。

(2011/4/20)
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  1. 2011/04/20(水) 12:53:04|
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プロフィール

太田 肇

Author:太田 肇
<ホームページ>
http://www.eonet.ne.jp/~ohtahajime/

<職業>
「組織学者」としておきます。

<主な研究分野>
組織論
とりわけ、「個人を生かす組織・社会」について

<肩書き>
同志社大学 政策学部・大学院総合政策科学研究科教授
経済学博士

<著書>
◆最新刊 『最強のモチベーション術 人は何を考え、どう動くのか?』(日本実業出版社)

『個人を幸福にしない日本の組織』(新潮新書)
『社員の潜在能力を引き出す経営』(中央経済社)
『がんばると迷惑な人』(新潮新書)
『子どもが伸びる ほめる子育て』(ちくま新書)
『組織を強くする人材活用戦略』(日経文庫)
『表彰制度』(日本表彰研究所との共著 東洋経済新報社)
『社員が「よく辞める」会社は成長する!』(PHPビジネス新書)
『公務員革命』(ちくま新書)
『承認とモチベーション -実証されたその効果-』(同文舘)
『「不良」社員が会社を伸ばす』(東洋経済新報社)
『「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)
『認め上手  -人を動かす53の知恵-』(東洋経済新報社)
『認められる力』(朝日新書)
『日本的人事管理論』(中央経済社)
『承認欲求』(東洋経済新報社)
『お金より名誉 のモチベーション論』(東洋経済新報社)
『「外向きサラリーマン」のすすめ』(朝日新聞社)
『認められたい!』(日本経済新聞社)
『「個力」を活かせる組織』日本経済新聞社)
『選別主義を超えて』(中公新書)
『ベンチャー企業の「仕事」』(中公新書)
『個人尊重の組織論』(中公新書)
『ホンネで動かす組織論』(ちくま新書)
『囲い込み症候群』(ちくま新書)
『仕事人(しごとじん)の時代』(新潮社)
『仕事人と組織』(有斐閣)
『日本企業と個人』(白桃書房)
『プロフェッショナルと組織』(同文舘)

<生活信条>
できるだけ人に迷惑をかけないこと。恩を忘れないこと。

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