太田肇 Critical Essays ”個の視点”

同志社大学政策学部教授 (個人尊重の組織論、モチベーション論)  日常生活のなかで疑問に感じたとき即座に書いたものがほとんどです。不完全な内容や思い違いがあるかもしれませんが、お許しください。

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塾通いと教師の対応

 わが国でも最近になって、社会の各層で「個人の尊重」が唱えられるようになってきた。教育の場でも、生徒一人ひとりの個性や人格を尊重すべきだという認識が広がっている。
 しかし、それを実践するとなるといろいろな障害にぶつかる。とくにそれが既成の観念と相容れなかったり、問題が日本的な風土にまで根ざしているとなると、改革は並大抵でない。身近によく起きる問題をひとつ取りあげてみたい。
 最近の小中学生のなかには、学校から帰るとすぐ塾に向かう子が少なくない。しかし、なかには下校時間が近づいても学校の課題をこなしきれない子もいる。中途で切り上げようとすると教師は、「学校と塾とどちらが大切なんだ」と生徒を叱り、すぐに帰そうとはしない。
 教師の発言は正論のように聞こえる。とくに加熱する受験戦争に眉をひそめている人たちは、教師の対応に拍手を送るに違いない。
 しかしそこには、受験制度の是否という議論を超えた問題が含まれている。学校(教師)が生徒の生活にどこまで干渉できるのかという問題である。塾以外にもスポーツ・クラブに通ったり、地域活動に参加する子もいるが、それらが非難されるという話は聞いたことがない。どうも塾だけは特別扱いのようである。
 もしかすると、教師の間に「教育はわれわれが主導権をとって行うものだ」という過剰な意識と、受験産業に対する危機感や反発があり、それがこのような態度となって表れるのではなかろうか。
 かりにそうであるならば、教師の対応には二重の意味で「個人尊重」への配慮が欠けているといわねばならない。
 子供にとって学校生活は大切であるが、それ以外の生活も大切である。どのようにバランスをとるかは、最終的に生徒と保護者が決めることである。少なくとも教師や学校が押しつけることではない。したがって放課後の生活まで制約することは明らかに行き過ぎである。
 もうひとつの問題は、加熱した受験への対応そのものにある。私自身、現在の受験制度には大きな弊害があると感じており、友達と遊んだり家族と過ごす時間もないような生活は明らかに異常だと思う。受験生の子をもつ多くの親もおそらく同感ではなかろうか。
 しかし受験制度がよくないから生徒を塾に行かせないというのは、あまりにも短絡的かつ独善的である。それは結果として特定の個人に不条理な犠牲を強いることを意味し、教師と生徒・親との信頼関係を壊すことにはなっても、問題の根本的解決にはつながらない。
 受験制度と塾通いに弊害があるとすれば、社会全体の問題として改革していくべきであり、個人に責任転嫁してはならないのである。
(『総合教育技術』1999.2)
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  1. 1999/01/31(日) 12:05:14|
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プロフィール

太田 肇

Author:太田 肇
<ホームページ>
http://www.eonet.ne.jp/~ohtahajime/

<職業>
「組織学者」としておきます。

<主な研究分野>
組織論
とりわけ、「個人を生かす組織・社会」について

<肩書き>
同志社大学 政策学部・大学院総合政策科学研究科教授
経済学博士

<著書>
◆最新刊 『最強のモチベーション術 人は何を考え、どう動くのか?』(日本実業出版社)

『個人を幸福にしない日本の組織』(新潮新書)
『社員の潜在能力を引き出す経営』(中央経済社)
『がんばると迷惑な人』(新潮新書)
『子どもが伸びる ほめる子育て』(ちくま新書)
『組織を強くする人材活用戦略』(日経文庫)
『表彰制度』(日本表彰研究所との共著 東洋経済新報社)
『社員が「よく辞める」会社は成長する!』(PHPビジネス新書)
『公務員革命』(ちくま新書)
『承認とモチベーション -実証されたその効果-』(同文舘)
『「不良」社員が会社を伸ばす』(東洋経済新報社)
『「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)
『認め上手  -人を動かす53の知恵-』(東洋経済新報社)
『認められる力』(朝日新書)
『日本的人事管理論』(中央経済社)
『承認欲求』(東洋経済新報社)
『お金より名誉 のモチベーション論』(東洋経済新報社)
『「外向きサラリーマン」のすすめ』(朝日新聞社)
『認められたい!』(日本経済新聞社)
『「個力」を活かせる組織』日本経済新聞社)
『選別主義を超えて』(中公新書)
『ベンチャー企業の「仕事」』(中公新書)
『個人尊重の組織論』(中公新書)
『ホンネで動かす組織論』(ちくま新書)
『囲い込み症候群』(ちくま新書)
『仕事人(しごとじん)の時代』(新潮社)
『仕事人と組織』(有斐閣)
『日本企業と個人』(白桃書房)
『プロフェッショナルと組織』(同文舘)

<生活信条>
できるだけ人に迷惑をかけないこと。恩を忘れないこと。

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