太田肇 Critical Essays ”個の視点”

同志社大学政策学部教授 (個人尊重の組織論、モチベーション論)  日常生活のなかで疑問に感じたとき即座に書いたものがほとんどです。不完全な内容や思い違いがあるかもしれませんが、お許しください。

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受験勉強を4年間延長させてよいのだろうか?

 新年度に入って、大学のキャンパスは初々しい新入生たちで活気に満ちている。毎年のことだが、新入生たちはやっと受験勉強から解放され、自由に学べる喜びと期待を隠そうとしない。何とか、それに応えてやりたいものだ。
 ところが最近は、どこの大学でも「自由に学ぶこと」が難しくなっている。
 日本の大学は入るときは難しいが、いったん入学すると卒業は易しいといわれてきた。そして、勉強をしない学生の増加が目立つようになった。たしかに学生のなかには、授業に必要でなければ(単位の取得に直接関係がなければ)本も読まない者が少なくない。
 こうした現状を受けて近年、文部科学省あたりから、日本も欧米の大学のように「入りやすいが出にくい」大学へ転換を図るべきだという声が聞かれるようになった。その声は、学力低下に眉をひそめる識者や、欧米追随こそが正しいと思いこんでいる人たちの支持を受け、あっという間に大きな世論となり大学を変えようとしている。
 どこの大学でも必修科目が増え、単位の取得も厳しくなってきた。宿題も多く、これまでのようにのんびりしていてはとても卒業できない。その効果があってか、最近の学生は一時に比べると真面目に授業に出席し、勉強しているように見える。しかし、よく見ると彼らの勉強ぶりは受け身で、まるで高校の延長のようだ。そして意欲的な学生のなかからは、「自分がやりたい勉強をしようと思っても忙しくてその余裕がない」という声が聞かれる。授業と無関係な本は読まないのも、その影響ではなかろうか。
 「入りやすいが出にくい」大学への改革によって、短期的な効果は期待できるかもしれない。ある程度の知識を身につけた者が社会に出て行き、それなりの仕事をするようにはなるだろう。しかし、それだけでよいのか。
 たしかに工業化社会においては、そのような人材を大量に社会へ送り出すことが大学の使命であった。それに対して脱工業化社会では、創造性や思考力、そして何よりも自分が得意で興味のある分野で自ら学ぶことが大切になっている。(決められた科目の単位取得に追われていて)大学でそれができなければ、いったいどこでそれをやればよいのか。
 私は、大学、とりわけこれからの大学は、勉強をするためのインフラであるべきだと考えている。そこでは、どれだけ質の高いインフラを提供できるかが問われる。学生にとって魅力的なインフラを提供するという考え方と、単位認定を厳しくし「品質保証」した学生を世の中に送り出すという考え方とは明らかに対立する。
 要するに私は、「入りやすく出やすい」大学が理想だと考えている。このようにいうと、「今でさえ学生は勉強をしないのに、いっそう勉強しなくなることは目に見えている」との反論が必ず返ってくる。たしかに一時的にはそうなるだろう。しかし、大学に合格したという実績や卒業証書が選別手段として役立たなくなると、いずれ企業や社会は個々人の能力や実績で評価するようになる。そして学生も、実力を身につけなければならないのでがんばって勉強するようになるに違いない。そこでの「がんばり」こそが本物である。実際に予備校や英会話学校などでは、卒業証書がなくてもがんばっているではないか。
 放っておけば勉強しない →勉強しないから強制する →強制されるので自分からやろうとしない。という「負の連鎖」を思いきって断ち切るべきだろう。
 詳しくは、拙著『選別主義を超えて』をご覧いただきたい。
(2005.4.16)
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  1. 2005/04/16(土) 13:18:15|
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プロフィール

太田 肇

Author:太田 肇
<ホームページ>
http://www.eonet.ne.jp/~ohtahajime/

<職業>
「組織学者」としておきます。

<主な研究分野>
組織論
とりわけ、「個人を生かす組織・社会」について

<肩書き>
同志社大学 政策学部・大学院総合政策科学研究科教授
経済学博士

<著書>
◆最新刊 『最強のモチベーション術 人は何を考え、どう動くのか?』(日本実業出版社)

『個人を幸福にしない日本の組織』(新潮新書)
『社員の潜在能力を引き出す経営』(中央経済社)
『がんばると迷惑な人』(新潮新書)
『子どもが伸びる ほめる子育て』(ちくま新書)
『組織を強くする人材活用戦略』(日経文庫)
『表彰制度』(日本表彰研究所との共著 東洋経済新報社)
『社員が「よく辞める」会社は成長する!』(PHPビジネス新書)
『公務員革命』(ちくま新書)
『承認とモチベーション -実証されたその効果-』(同文舘)
『「不良」社員が会社を伸ばす』(東洋経済新報社)
『「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)
『認め上手  -人を動かす53の知恵-』(東洋経済新報社)
『認められる力』(朝日新書)
『日本的人事管理論』(中央経済社)
『承認欲求』(東洋経済新報社)
『お金より名誉 のモチベーション論』(東洋経済新報社)
『「外向きサラリーマン」のすすめ』(朝日新聞社)
『認められたい!』(日本経済新聞社)
『「個力」を活かせる組織』日本経済新聞社)
『選別主義を超えて』(中公新書)
『ベンチャー企業の「仕事」』(中公新書)
『個人尊重の組織論』(中公新書)
『ホンネで動かす組織論』(ちくま新書)
『囲い込み症候群』(ちくま新書)
『仕事人(しごとじん)の時代』(新潮社)
『仕事人と組織』(有斐閣)
『日本企業と個人』(白桃書房)
『プロフェッショナルと組織』(同文舘)

<生活信条>
できるだけ人に迷惑をかけないこと。恩を忘れないこと。

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