太田肇 Critical Essays ”個の視点”

同志社大学政策学部教授 (個人尊重の組織論、モチベーション論)  日常生活のなかで疑問に感じたとき即座に書いたものがほとんどです。不完全な内容や思い違いがあるかもしれませんが、お許しください。

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全体の視点と「個」の視点

 生来の天の邪鬼である私は、子供の頃から大勢に素直に従うことができなかった。おまけに何でも「個」の視点から考える性癖があった。
 今でも、琵琶湖の生態系を乱す悪玉として外来魚が駆除されるのを目にするたびに、「ブルーギルもニゴロブナも一匹の命は同じなのに」と思ったり、「温暖化阻止」のキャンペーンが張られると、「豪雪地帯に住む人々の本音はどうなんだろう」と考えてしまう。
 このような視点でわれわれが生活する組織や社会を眺めてみると、常識的な見方とは反対の面が目につく。実際に、経営者や株主からみて優良企業と称揚されている会社が社員にとっては残酷な修羅場だったり、偏差値の高い有名大学の研究環境が最悪だったりすることも多い。
 また最近では、一緒に働いたり生活している人々の間でも利害が鋭く対立するケースが増えてきた。パートタイマーや契約社員と正社員との対立、地域社会における新旧住民の間でのトラブルなどはその例である。
 さらに、全体と個との間に中間的な組織ができて三層構造になると、利害関係が複雑になって評価が難しくなる。
 昨今、規制緩和や地方分権は一種の国是とされており、それはビジネスマンや地域住民に利益をもたらすと信じられているため、内側から異を唱える人も少ない。しかし、規制緩和でビジネス・チャンスが広がっても、従業員が直接その恩恵を受けるとは限らず、逆に仕事がハードになり土日に休めなくなるといった弊害も出ている。一方で、あまり必要性のない兼業禁止規定など、個人に直接関係する社内の規制は残ったままである。
 地方分権にしても、住んでいる地域がたまたま財政力の豊かな自治体であればメリットは大きいが、自治体が貧困であったりやトップの行政手腕が欠けている場合には恩恵を得られない。大都市の高齢者が無料で市バスに乗車しているのに対し、過疎地の高齢者が唯一の足であるバスに高額の運賃を支払っている姿を見ると、来たる分権化社会は必ずしもバラ色ではない予感がする。地方の住民からは、「むしろ中央集権で格差のない時代の方がよかった」という声も聞かれる。
 規制緩和によって新興企業の経営者・株主が、また地方分権によって自治体の首長が恩恵を受けることだけは間違いない。そのため彼らは、規制緩和や地方分権が末端の人々の利益につながることをしきりにPRし、理解と支持を得ようとする。しかし実際には両者の利害は対立することも多く、末端の人々にとっては、身近なところへ権限が移ることが必ずしもプラスにはならない。子供の頃に弱虫だった人は、生徒の自主性に任されるクラブ活動などで、上級生が幅を利かすのに戦々恐々としていた経験を思い出してみるとよいかもしれない。
 要するに、全体、部分、個はそれぞれ別個の存在であり、利害が一致しないのは当然なのである。もちろん最終的には、全体の利益のために個の利益を犠牲にしなければならないこともある。しかしその場合でも、実際には一枚岩ではないという事実を認識しておくべきであろう。少なくとも、「個」の視点から異を唱えることをタブー視する風潮だけは改めたいものである。
(『Duet』2000.6,7)
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  1. 2000/06/07(水) 12:17:31|
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プロフィール

太田 肇

Author:太田 肇
<ホームページ>
http://www.eonet.ne.jp/~ohtahajime/

<職業>
「組織学者」としておきます。

<主な研究分野>
組織論
とりわけ、「個人を生かす組織・社会」について

<肩書き>
同志社大学 政策学部・大学院総合政策科学研究科教授
経済学博士

<著書>
◆最新刊 『最強のモチベーション術 人は何を考え、どう動くのか?』(日本実業出版社)

『個人を幸福にしない日本の組織』(新潮新書)
『社員の潜在能力を引き出す経営』(中央経済社)
『がんばると迷惑な人』(新潮新書)
『子どもが伸びる ほめる子育て』(ちくま新書)
『組織を強くする人材活用戦略』(日経文庫)
『表彰制度』(日本表彰研究所との共著 東洋経済新報社)
『社員が「よく辞める」会社は成長する!』(PHPビジネス新書)
『公務員革命』(ちくま新書)
『承認とモチベーション -実証されたその効果-』(同文舘)
『「不良」社員が会社を伸ばす』(東洋経済新報社)
『「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)
『認め上手  -人を動かす53の知恵-』(東洋経済新報社)
『認められる力』(朝日新書)
『日本的人事管理論』(中央経済社)
『承認欲求』(東洋経済新報社)
『お金より名誉 のモチベーション論』(東洋経済新報社)
『「外向きサラリーマン」のすすめ』(朝日新聞社)
『認められたい!』(日本経済新聞社)
『「個力」を活かせる組織』日本経済新聞社)
『選別主義を超えて』(中公新書)
『ベンチャー企業の「仕事」』(中公新書)
『個人尊重の組織論』(中公新書)
『ホンネで動かす組織論』(ちくま新書)
『囲い込み症候群』(ちくま新書)
『仕事人(しごとじん)の時代』(新潮社)
『仕事人と組織』(有斐閣)
『日本企業と個人』(白桃書房)
『プロフェッショナルと組織』(同文舘)

<生活信条>
できるだけ人に迷惑をかけないこと。恩を忘れないこと。

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