太田肇 Critical Essays ”個の視点”

同志社大学政策学部教授 (個人尊重の組織論、モチベーション論)  日常生活のなかで疑問に感じたとき即座に書いたものがほとんどです。不完全な内容や思い違いがあるかもしれませんが、お許しください。

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去っていったカワラヒワ

 7年ほど前に腰痛を経験してから、腰に筋肉のコルセットをつけようと、毎朝公園で走ることにしている。今から3年前の7月8日、いつものように走り終えて帰ろうとすると、足元にある側溝のふたの間から小鳥の鳴き声が聞こえた。覗いてみると、羽の黄色い鳥の雛だった。巣から落ちたときに痛めたのか、翼が曲がっており血もにじんでいる。放っておくと死んでしまうので、とりあえずつれて帰ることにした。
 よほどのどが渇いていたのか、ストローで牛乳を与えると、小さな体にしては驚くほどたくさん飲んだ。近所にペットを飼っている人がいたので、その人に助けてもらいながら鳥かご、留まり木、巣などをそろえ、スリえさや野菜を与えた。
 何という鳥だろうかとホームページで調べてみると、カワラヒワという鳥で、たぶんオスだということがわかった。姿も鳴き声もきれいで、体重は成長してもわずか15グラムくらいだがなかなか攻撃的である。
 ふつう野鳥は人間になつかないというが、この鳥は育ててくれた人間を親と思っているらしく、家族の誰でも近くにいると飛んできて頭、肩に留まる。私がパソコンで原稿を書いているとキーを占領し、私の指をつついてくる。食事の時は必ず食卓で私たちの料理を一緒に食べるし、私たちの口の中にまでくちばしを入れてついばむのが当たり前になった。食器の中に平気で足を入れるしあちこちに糞をたれるが、不思議なもので汚いと思ったことはなかった。
 私たちはこの小鳥を「ピーコ」(平凡な名前だが)と名付け、家族の一員のようにしてかわいがった。伯父が亡くなってちょうど一月目に拾ったので、まるでかわいがってくれた伯父の生まれ変わりのようにも思えた。
 ところが一つ困ったことが起きた。話によると、どうやら野鳥を個人で飼うことは法律で禁止されているらしい。しかし羽に障害があってふつうの鳥のように飛べないので、外へ逃がせばカラスか犬の餌食になることは目にみえている。そこで林務事務所に相談したところ、傷が完治するまでは飼育してもよいということだった。
 それから3年近く、ピーコは毎日家族と一緒に暮らし、狭い家の中を飛び回り、きれいな鳴き声を聞かせてくれた。ピーコのおかげで私たちはずいぶん安らぎ、夫婦喧嘩や親子喧嘩も減った。来客にも馴れると愛嬌を振りまき、雰囲気を和ませた。家族で遠出をするときは車の真ん中が鳥籠の指定席になっていた。
 こうした生活に転機が訪れたのは昨年(2001年)の暮れである。10年あまり住んだ賃貸住宅は家財であふれ、いよいよ一戸建てに移ることになった。そこでもとりあえず、リビングで半ば放し飼いにしていた。前の家はあちこちが糞で汚れても平気だったが、さすがに新しい家具を汚されるのには抵抗がある。そのため、以前と違って籠の中に閉じこめたり、近くにくると追い払ったりするようになった。
 追い打ちをかけるように、もう一つのピンチが訪れた。新居の周辺は夜間うす暗く、たいていの家が番犬を飼っている。わが家でも防犯対策上、番犬を飼わざるを得ないという話になった。ただ、わが家ではピーコのほかにも、10年ほど前から金魚を飼っており、さらに1年間別居していた長男がペットのザリガニを大量につれて帰ってくることになっている。そのうえに犬を飼うのではペットに振り回されてしまう。そこで、いちばん手のかかるピーコを何とかするしかないと考えるようになった。たまたま環境省が法律を改正し、野鳥を飼うこと自体を禁止するということが報じられた。私は、ピーコを手放す好機ではないかという思いがよぎるのを禁じ得なかった。
 もちろん罪のないピーコに、そのような心変わりが伝わらないよう、これまでと同様にかわいがったつもりである。ところが気のせいか、ピーコの様子がこれまでとは少し変わってきたように思えた。家族が部屋を出ようとすると鳴き続け、しつこく追いかけてくるようになった。そして3月に入ると、私の右肩に留まり、小さな声でしきりにさえずるようになった。ときには耳たぶにかみついて出血させることもあった。まるで何かを伝えようとしているようで、私は家族に「もはや自分の居場所がなくなり、別れの挨拶をしているのではないか」と話した。
 そして3月のある日。長男が一年ぶりにわが家へ引っ越してきた。車から荷物を下ろそうと玄関のドアを開けたとたん、後ろからついてきたピーコが空に舞い上がった。私はまさかと目を疑った。今までリビングの中でしか飛んだことがなく、長くても10秒くらい飛ぶと力つきて床でへたばっていた。しかも、知らない人が来たり少しでも環境が変わると決して私たちの肩や頭の上から離れようとしなかった臆病者が今、大空を飛び回っているではないか。
 ピーコは、家の上空を2,3度旋回した後、近くの大木の枝に留まった。家族が下から見守っていると聞き慣れたきれいな声でしばらく鳴いていた。するとそこへ、もう1羽のカワラヒワが飛んできた。そして、待ち合わせていたかのように2羽で遠くへ飛び去ってしまった。まるで夢を見ているかのようだった。
 ひょっとしたらまた帰ってくるかもしれないと思い、空になった鳥籠は玄関においたままである。戸を開けて、中には好物のアワと小松菜が入れてある。時折カワラヒワの声が聞こ
えると外に飛び出してみるが、鳥籠は空のままである。
 「薄情なヤツ」との思いもなくはないが、たくましく成長し旅だってくれた満足感や安堵感の方が遙かに大きい。ただ、疎ましく思った私に罪悪感を与えることなく去っていったようで、その健気さを思うとしばらく仕事に身が入らず熟睡もできなかった。
 私たち家族にとって二度と経験できないであろう貴重な3年間だった。
 (2002.4)
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  1. 2002/03/31(日) 12:26:05|
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プロフィール

太田 肇

Author:太田 肇
<ホームページ>
http://www.eonet.ne.jp/~ohtahajime/

<職業>
「組織学者」としておきます。

<主な研究分野>
組織論
とりわけ、「個人を生かす組織・社会」について

<肩書き>
同志社大学 政策学部・大学院総合政策科学研究科教授
経済学博士

<著書>
◆最新刊 『最強のモチベーション術 人は何を考え、どう動くのか?』(日本実業出版社)

『個人を幸福にしない日本の組織』(新潮新書)
『社員の潜在能力を引き出す経営』(中央経済社)
『がんばると迷惑な人』(新潮新書)
『子どもが伸びる ほめる子育て』(ちくま新書)
『組織を強くする人材活用戦略』(日経文庫)
『表彰制度』(日本表彰研究所との共著 東洋経済新報社)
『社員が「よく辞める」会社は成長する!』(PHPビジネス新書)
『公務員革命』(ちくま新書)
『承認とモチベーション -実証されたその効果-』(同文舘)
『「不良」社員が会社を伸ばす』(東洋経済新報社)
『「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)
『認め上手  -人を動かす53の知恵-』(東洋経済新報社)
『認められる力』(朝日新書)
『日本的人事管理論』(中央経済社)
『承認欲求』(東洋経済新報社)
『お金より名誉 のモチベーション論』(東洋経済新報社)
『「外向きサラリーマン」のすすめ』(朝日新聞社)
『認められたい!』(日本経済新聞社)
『「個力」を活かせる組織』日本経済新聞社)
『選別主義を超えて』(中公新書)
『ベンチャー企業の「仕事」』(中公新書)
『個人尊重の組織論』(中公新書)
『ホンネで動かす組織論』(ちくま新書)
『囲い込み症候群』(ちくま新書)
『仕事人(しごとじん)の時代』(新潮社)
『仕事人と組織』(有斐閣)
『日本企業と個人』(白桃書房)
『プロフェッショナルと組織』(同文舘)

<生活信条>
できるだけ人に迷惑をかけないこと。恩を忘れないこと。

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